
流通革命に想う
2009.06.03
イントロダクション
今から半世紀前の話だが、東大教授林周二氏の著作「流通革命」は当時のベストセラー本であった。氏は著作の中で問屋中抜き論を掲げ、欧米に立ち遅れている日本の流通機構の抜本的な改革を訴えられたのである。
特に欧米と比べ立ち遅れていると指摘される事項は、日本のW/R比率の高さにある。要するに多段階流通機構の構図のことであり卸売業が異常に多い点である。現在でも日本のW/R比率は3.5以上あり高い数値となっている。
※W/R比率 : 卸売総売上高÷小売総売上高
氏の「流通革命」とは、流通機構の中の卸売業(問屋)を外しメーカーと直接取引をして中間マージンを省き、より安く商品を消費者に提供すると言うシンプルで単純明快な理論であった。現在、ダイレクトバイインと呼ばれていることである。
さらにそのことを進めて「小売業が主体的にマーチャンダイジングを行い、製造段階からすべてを統制管理することが小売業の目指すべき方向性であり、そのことが小売業の最大の使命である。」と渥美俊一先生(前回ブログで紹介)等は熱く語られ、チェーンストア各社を指導されていた。マチャンダイザー育成の必要性を訴えられたのである。
多くの小売業経営者はその考えに共鳴して、経営の志向性もそこに求めたのである。その代表的な企業としてはダイエーであった。
ただ、もう一つの雄であったイトーヨーカ堂はマーチャンダイザーの育成ではなく、製造業、卸売業、小売業が一体となりチームを組み連携しながらマーチャンダイジングを行うと言うチームマーチャンダイジングを標榜した。現在もこの考え方でイトーヨーカ堂は進められている。
「流通革命」の初版が出版されてから50年が過ぎ去った現在、マーチャンダイザー育成を志向していた小売業最大手企業だったダイエーの凋落ぶりは目を覆うばかりである。又チェーンストアー企業の最初の上場企業であった長崎屋、大手企業のマイカル(ニチイ)等は破産して他の企業の子会社になってしまっている。
イトーヨーカ堂(セブン&アイホールディング)は現在の小売2強の一社となって気を吐いてはいるが、イートーヨーカ堂単体としての2009年2月期決算ではついに創業以来初めての赤字決算を発表した。
問屋中抜き論で50年前には、いずれ淘汰される運命にあると言われていた卸売業は現在でもその存在意義を立派に発揮して業績を拡大している。今期の決算では食品卸最大手の国分、菱食両社は売上高で1兆4千億円を超え、増収増益を発表した。
小売業各社と比べ、現在の卸売業は確かに元気がある。林周二氏が唱えられた「流通革命」はまぼろしであったと言わざるを得ない。
P.S. 林周二氏は「数学再入門T、U」を執筆された方である。文系ビジネスマン向けの数学の解説とのことであったが、内容は深く印象に残った本である。

小売業専門雑誌の現状
2009.05.27
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最近、書店で久しぶりに小売業関係の月間専門雑誌コーナーを覗いてみた。以前、この種のコーナーは比較的広いスペースを取っていたようにも記憶しているのだが本当に狭くなっているのには驚いた。書店によっては小売業関係の雑誌はフェーシングもせず、最上段のストックスペースに置いている店もあった。
ちなみに小売業の月間専門雑誌とは「販売革新」「商業界」「食品商業」等である。衣料品の専門雑誌で「チャネラー」と言う名前だったと思うのだが、こちらの専門雑誌すでに廃刊になっており置いていなかった。

蛇足になるが、八王子市図書館では各業界の専門雑誌はかなりの数が置かれているのが、小売業の雑誌がなかったので、職員さんにリクエストを出してみたところ「都内では上野の図書館にのみ置いている」とのことであった。
廃刊になったり、書店の陳列スペース(フェーシング)が狭くなったり、なくなってしまっている理由は、単純明快、売れないからである。要するに読者が以前より減少して、いなくなったということである。
「マーケティング」「流通革命」と言う言葉が新鮮な響きをもって世の中に受け入れられ、新しい時代を予感させたのは今から40年以上も前である。小売業に携わる人々には仕事へのやりがいとロマンを感じさせる何かがあった。
当時チェーンストア理論を体系的に纏められた日本リテイリングセンター出版・渥美俊一先生著のチェーンストア10巻シリーズはチェーンストアマンの購読必携の書であった。精神論が中心になりがちな小売業の書物の中で、ひときわ異彩を放ち、ロジカルで科学性、合理性を追求した納得性の高い内容となっていた。
前述した専門雑誌の販売革新等もチェーンストアマンはおしなべて購読していたものである。
あの時代のあの熱気、高揚感は何処へ行ってしまったのか?!
竹本幸之祐氏を想う
2009.05.20
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タイトルにある「竹本幸之祐氏」をご存知だろうか?
80年代に日本中を感動の渦に巻き込んだ「てんびんの詩」を作成された方と言えば、あぁぁ〜 と言われる方もいると思う。若い方はご存知無いのかも知れないが…



出所:日本映像企画HP
日本映像企画の代表を勤められ、多くの映像を世に出し講演活動も活発に行われた方である。てんびんの詩以外には「人間だもの」「おんなだもの」「夫婦だもの」の女性シリーズもの、「ナザレの愛」等の愛シリーズものも有名である。
「人生と映画」と言うテーマでは氏は次のように語られておられる。
『人間の成果というのは、一人で得られることは知れている。大勢の共感があり、助力があってこそ、大きな成果として実っていくのである。映画が一人では絶対作れないのと同じく、どんな企業も基本は人であると私は思う。』
『人との一期一会の出会いを大切にすることによって、人間にたちかえり、人間から出発して、人間の役に立つ映画を取り続けていくこと。それが私の願いであり、これらの映画を通して、一人でも多くの人と語り合うことができればと思う。』
今は故人であるが、奥様がその精神を受け継がれ活動は続けられておられる。本社は滋賀県大津市で何度かお伺いしたことがある。
近江商人の地元にあり“商いの心”等を題材にした映画であるが、人間としての生き方、人が人を愛することの尊さと美しさ等を教え、示唆に富んだ内容となっている。機会があれば是非ご視聴していただきたい。
石田梅岩とM.ウェーバー
2009.05.12
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石門心学の石田梅岩はご存知だろうか?
江戸時代の1685年生まれだと言うので、今から300年ほど昔の方である。当時はご存知のとおり、士農工商と言う身分制度が確立していた。為政者であった武士が一番高い身分、次に米等を作る農業従事者、三番目にものを造る職人、そして最下層は商人すなわち卸売業者、小売業者とされた時代である。
そんな時代において、石田梅岩は「商業の本質は交換の仲介業でありその重要性は他の職分になんら劣るものでない。商人の仕事は立派な職分である」として、商業の利潤獲得の正当性を訴え、商人の心構えを説き商人の職業道徳の指針を明確にしようとしたのである。

ヨーロッパではドイツの社会学者マックスウェーバーが「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(プロ倫)」を発表したのが今から100年程前である。この本はプロテスタンティズムの盛んな地域で近代資本主義が発展していることを重視して、その因果関係について考察したものである。その中で「各人の具体的な職業は神の導きによって与えられたものであり、この具体的な地位を満たせと言うのが神の特別の命令だ」とするマルティンルターの天職思想を紹介して、その思想が資本主義的天職概念に結びつき資本主義の発展に大きく影響したとしている。すなわち商業従事者も神に代わる大切な職業だとしているのである。

現在でも産業界には製造業優位観は存在しているように思われる。それは財界の大御所でもある日本経団連の会長には初代の石川一郎氏から、9代目の現在会長の御手洗冨士夫氏までほとんどがトヨタ、新日鉄、キャノン等製造業の社長、会長が務めておられることからも感じることである。
このような現在でも支配している価値観に対抗するがごとく、300年以上も前に商業の本質を見つめ、人々に商業倫理等を説いていた石田梅岩の聡明な見識に今さらながら驚かされるのである。
小売業の存在価値
2009.05.06
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私はかつて小売業界に身を置き、毎日の売上高の多寡に一喜一憂していたことがあった。ご存知のとおり、小売業は流通チャネルの最終に位置し、最終消費者に直接接するセクターである。
<流通チャネル>
Manufacture ⇒ Wholesale ⇒ Retail ⇒ Consumer
(生産・製造) (卸売) (小売) (消費者)
小売業の存在価値はものを造りだす製造業と比べて過小評価される。
製造業で造りだされた製品を流通チャネルに乗せ、各種サービスを付加して最終消費者に届ける役割・ミッションが過小評価されているのである。
私の中にもこのような価値観は兜ス和堂(関西・東海・北陸で店舗展開中)に入社したときからあったように思える。
会社の目的・使命については経営理念で謳われ、又経営トップからも「小売業の仕事の重要性」「仕事を通じた社会貢献の意義」等については常々教育を受けてはいたが、やはり心の隅に製造業優位の思想が存在していた。
しかしこの価値観・意識が大きく転換するようになるきっかけがあった。
今回の最初のブログではこのことについて記述したいと思う。
昭和から平成に変わる頃、私はスーパーマーケット(SM)の店長をしていた。入社時はアンダーウエアー部門担当からスタートして、衣料マネジャー、食品マネジャー等を経験してSMの店長になっていた。
ある時、故障したレジスターを修理のためメーカーから派遣されていたサービススタッフの方に、何気なく「レジスターの複雑なこのような仕組み、配線を覚えることは大変ですね!? 難しいお仕事ですね! 」とその方の仕事への尊敬の念もこめて話しかけてみた。
するとその方は「そんなに難しくないですよ! 一度覚えれば後は経験するだけです。 それより皆さんの仕事の方が大変と思います。1万ほどの商品アイテムを日本の各地、世界各国から取り寄せて、余らさず、切らさず適量を店頭に並べる。そしてその仕事の大部分は感情ある人間が行い、マネジメントしていかなければならない。本当に難しい大切なお仕事と思っています。」とのこと。
確かに考えてみれば、店には毎日千人前後のお客様が来店され、買い物をされているにもかかわらず1万アイテムの商品で品切れをしているアイテムはごく僅かである。
毎日当然しなければならないと思っていた状況を作り上げることは、実は大変難しいことの積み重ねで成り立っているのだ! と改めて感じ入った次第であった。
この出来事は、自分の職業(小売業の仕事)に対しての誇りを醸成するきっかけになったと思う。そして職業観そのものを確立するきっかけでもあった。
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